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909 Episode 907: The White

    「判った。慌てることはない。少しづついこう。では、そうだな……わたしの姿は君からは見えているのだったな?ならばそれは正面か?君はわたしの真正面にいるのか?」


    …………そう。正面だ…………


    「そうか。ならば近づいてくれ。わたしの目の前まで来てくれ」


    シェスターの求めに奇妙な声が応じた。


    …………判った…………


    するとしばらくしてシェスターの目の前に、薄ぼんやりと、白い人の形をしたものが近づいてきた。


    シェスターは目を細めて凝視するも、それはあくまで人のシルエットをかたどっているだけの煙のようなものであった。


    「……よく見えんな……煙のようにしか見えん……」


    シェスターの呟きに、奇妙な声が不思議そうに言った。


    …………煙?…………どういう意味?…………


    「人の形をした煙に見えるのだ。白いもうもうとした煙にな」


    …………そうなのか?…………それってもしかして、俺があんたをはっきりとは見えないことと関係があるのかな?…………


    「ふむ……そういえば先程、君は靄がかかっていると言っていたが?……その靄はすぐ目の前なんだな?」


    …………ああ、目の前にある感じだ。もしかしたらこの靄が煙の正体ってことなのか?…………


    するとシェスターが大いにうなずいた。


    「おそらくそうだ。よし、ならばもっと近づいてくれ。それこそわたしの顔の目の前ギリギリまでだ。恐らくそこまで近づいたら、中が透けて見えるはずだ」


    …………わかった。だけどそれにしてもなぜあんたは、そんな水に浮いているような格好をしているんだ?…………


    するとシェスターが苦笑を浮かべた。


    「さあな。だが君の指摘は正しい。わたし自身も君と同じく、水に浮いているように感じているのだからな」


    …………てことは、自分の意思じゃないってこと?…………


    「その通りだ。一応説明しておくと、わたしはつい先程まで、あるホテルのソファーに座ってうたた寝をしていた。ところが目を開けてみると、この真っ暗な空間に放り出されていたというわけだ。このように水に浮いた様な格好をしてね」


    …………不思議な話しだな…………とはいっても俺なんてさっきまで何をしていたのかも憶えちゃいないがね…………


    奇妙な声が自虐的に笑った。


    「そうか。直前のことも憶えていないのか……」


    …………ああ、参ったね。全く何も憶えちゃいないよ…………でもまあ、いいさ。とりあえず近づくよ。そちらからは動けないんだろ?…………


    「ああ。残念ながら自分の意思で君に近づくことは出来なそうだ。なので君から頼む」


    …………わかった。じゃあゆっくり近づくよ…………


    奇妙な声はそう言うと、少しずつシェスターへと近づいていった。


    「よし。もう少しだ。もう少し近づいてくれれば、靄の中に入れる」


    …………わかった。でも男とキスなんてのはごめんだからな。そんなことにならないようにゆっくり行くよ…………


    白い靄はゆっくりとシェスターに近づき、ついにシェスターはその中に入った。


    そして……シェスターは靄の中にいる男の顔を見た。


    「なっ!?君はもしかして……ガイウス君なのか!?」
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