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899 Lesson 897: Limits

    「ちぃっ!打てども打てども……これでは一向にきりがない。いつになったらこの森を抜けられるというのか……」


    先頭を独り行くシェスターが、魔獣のあまりの数の多さに辟易として吐き捨てた。


    するとその呟きが聞こえる訳もない十M後方に位置するエルバが、突如シェスターに向かって大声を出した。


    「シェスター審議官!大丈夫!?速度が落ちているようだけど!?」


    シェスターは軽く驚き、瞬間的に後ろを振り返って言った。


    「すまん!気付かなかった!速度を上げる!」


    シェスターは紋切り型に必要な事だけを叫ぶと、直ぐさま馬腹を蹴って速度を上げた。


    だがシェスターが速度を上げた時にはすでに最後尾のアジオたちに、追走する猿の如き魔獣たちが今にも地面を蹴り上げて襲いかかろうとしていた。


    アジオは樹上より襲い来る魔獣たちを切り伏せながら、傍らのバルトに向かって静かに宣言した。


    「……そろそろ限界のようですね……一発勝負で氷結瀑布(ブレイズフォール)を放ちます。援護をお願いしますね?」


    するとバルトが重々しくうなずいた。


    「了解した。樹上の猿どもはわたしが請け負おう。後ろの猿どもを頼む」


    「ええ、それでお願いします。じゃ、ちょっと近づきますね……」


    アジオは言うや、手綱を軽くバルトの方向に引いた。


    すると二頭の馬が、その逞しく発達した足の筋肉を擦れ合わせるのではないかという位に接近した。


    「……じゃ、上は頼みますよ……ちょっと時間がかかりますんでね……」


    アジオはそうバルトに告げると手に持った刀を腰の鞘に素早く収めた。


    そしてゆっくりとうつむき、両手を合わせてなにやら小声で呪文を唱え始めた。


    そしてしばらくの間、樹上から襲いかかる魔獣をバルトが右に左に切り伏せていると、ついに詠唱を終えたアジオが顔を上げた。


    アジオはおもむろに後ろを振り返ると、ニヤリと口角を上げて魔獣たちに笑いかけた。


    「……ではお別れですね。よく長い事後ろを尾いてきたものです」


    アジオは追尾し続ける魔獣たちに別れの挨拶を送ると、左手をゆっくりと後ろへ持っていった。


    そして目を瞑り、アジオ渾身の魔法の名前を告げるのであった。


    「氷結瀑布(ブレイズフォール)!」


    するとアジオの左腕全体が激しく青く輝きだした。


    だが次の瞬間、青き輝きは直ぐさま左掌の先に集束して巨大な光球となると、追尾する魔獣たち目掛けて凄まじい勢いで放たれた。


    光球はたちまちの内に地面を疾駆する魔獣たちのほとんどを包み込んだ。


    そして巨大な爆発音と共に、光は激しく四方に散ったのだった。


    「……ふう……だいぶ片付きましたね……」


    アジオが溜息交じりに言うと、傍らのバルトが肩をすくめた。


    「中々やるではないか。見事だ」


    アジオは再び佩刀を腰から抜き放つと、樹上から襲い来る魔獣たちを切り伏せた。


    「まあね。でも上はまだまだ襲ってくるけどね……」


    アジオはそう言って大きく肩をすくめるのであった。
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