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64 Episode 62: Miranda and Merm

    シェスターたちが最近流行(はや)りの言葉遊びに興(きょう)じていたところ、突然クラス一かしましいと評判のメルムによる速射砲のようなけたたましい声が教室中に響き渡った。


    「ミランダ!まあ、あなたミランダじゃないの!退院してきたのね?もう身体の具合はいいの?学校に出てきても大丈夫なの?」


    それに皆が驚き、振り向くとそこには、病気のため学校を二月(ふたつき)もの間休学していたミランダが、教室のドアの前におずおずと立っていた。


    すると皆一斉にミランダに向かって押し寄せ、それぞれ思い思いに話しかけた。


    「身体もういいの?」「元気になったの?」「あまり顔色良くないみたいだけど大丈夫?」「無理するなよ?」


    そんな畳み掛けるような質問攻めをメルムが強引に制した。


    「ちょっとみんな!ミランダは病弱なのよ!そんなに一度に質問しないの!」


    クラスメートたちは皆、メルムが先程我先にと質問攻めをしていたことを思い出したものの、そのことを言えばメルムから恐ろしいほどの言葉攻めが押し寄せてくることを思い、皆一様に黙りこくったのであった。


    「あ、あの……わたし、まだ完治したってわけじゃないんだけど、大分良くなったから……」


    「そう!よかった!ねえみんな?よかったわよね?」


    メルムによる半ば強制的なうながしに、クラスメートたちは辟易(へきえき)しながらも、万雷の祝福をミランダに送った。


    「本当によかったわ」「ええ、よかったわ」「元気そうで良かった」「帰ってきてうれしいわ」


    クラスメートたちの温かい祝福の声に、ミランダは多少恥ずかしげではあるものの、ひまわりの様な明るい笑顔を皆に披露した。


    「はいはい!みんな!ミランダは病み上がりなのよ!そんなに大声出したらビックリしちゃうじゃない。


    みんなそろそろ静かに席に戻って!」


    メルムはだれよりも大声を張り上げてそう言った。


    当然皆、また自分のことを棚にあげてと思ったものの、やはり誰一人としてそのことを口にするものはいなかった。


    そのため皆仕方なく小声でミランダに言葉をかけながら渋々それぞれの席へと戻っていった。


    その様子を教室の後ろの方の席で眺めていたジョゼフがあきれながら言った。


    「なんなんだメルムの奴!みんなが喜んでいるのに水を差すような真似しやがって!」


    するとセバスティアンがほおずえをつきながら、むずかしそうな顔をして言った。


    「う~ん。まああれが彼女の性格だからね~」


    「性格だからっていいわけじゃないだろ?あいつあんなんだからみんなに嫌われるんだぜ?」


    「う~ん。まあそうなんだけど、問題はそのことにメルム自身が気付いていないところだね」


    「まったく!いいかげん嫌われていることに気付けっつ~の!」


    すると、それまで楽しげにジョゼフの相手をしていたセバスティアンが、ジョゼフのななめ後方をチラッと見て、気まずそうな顔つきで一つ大きな咳払いをした。


    だがジョゼフは興奮しているのかそれに気付かず独白をし続けた。


    「あのままいったらあいつ、ろくな大人にならないぜ!だってそうだろう?あいつ空気が読めないんだぜ?きっとあいつは一生誰とも仲良くならずに独身のまま一生を終えると俺は思うね!」


    「悪かったわね」


    「ああ悪いね…………うん?」


    ジョゼフはギョッとした顔で、声のした後背を勢いよく振り返った。


    するとそこには鬼の形相のメルムが仁王立ちしてジョゼフを睨(にら)みつけていた。


    「んぐっ!……よ、ようメルム……」


    先程までの勢いはどこへやら、ジョゼフは消え入りそうな声でそう言った。


    「……間が抜けすぎだよ……ジョゼフ……」


    セバスティアンの溜息交じりのツッコミに続いて、メリルの速射砲のような口撃が雨霰(あられ)とジョゼフに襲い掛かった。


    「ジョゼフ!他人(ひと)の悪口を言うなら面と向かって言いなさいよ!それをあんた何こそこそと隠れて言ってんのよ!おまけに間抜けにも悪口をその相手に聞かれるなんて馬鹿じゃないの!?本当にあんたみたいな馬鹿見たことないわ!あんたきっとヴァレンティン一の馬鹿ね!いいえ、ヴァレンティン一どころかきっとあんたは世界一の大馬鹿よ!」


    メルムの息をもつかせぬ連撃にジョゼフは大いにたじろぎ、座っている椅子をズルズルと引きずりながら後ずさった。


    そしてジョゼフの後ろの席で腕組みしながら苦笑しているシェスターに、弱々しげな声で助けを求めた。


    するとシェスターは仕方ないといった顔で溜息を一つ吐いてから言った。


    「メルム、そんなに怒らないでやってくれ。ジョゼフもつい勢いで言ってしまっただけだ。ジョゼフはいつもつい調子に乗るところがある。まあ馬鹿なんだろう」


    言われてジョゼフは目を白黒させたが、シェスターに仲裁を頼んだ手前ここで口を挟んではと思い、喉まで出掛かった苦情をなんとか飲み込んだ。


    するとメルムがシェスターの言葉に何度も大きくうなずきながら言った。


    「ええ、シェスター。こいつは馬鹿よ!正真正銘の大馬鹿者よ!」


    「ああ、そうだな。なのでつい調子づいて思ってもみないことを言ってしまうんだよ。なにせ馬鹿だからな」


    「ええ、そうね」


    「そうだろう?まったく馬鹿につける薬はないというが本当だね。俺たちも日頃ジョゼフの馬鹿さ加減には困っているんだよ」


    ジョゼフはさらに目を白黒させ顔を真っ赤にしながらもなんとか耐えている。


    そんなジョゼフの顔を見てメルムは溜飲(りゅういん)を下げたのか、満足そうな顔を浮かべて言った。


    「……まあいいわ。シェスター、ここはあんたの顔を立ててやるわ」


    そう言うとメルムはぷいっと踵(きびす)を返して立ち去っていった。


    そして、メルムが教室の最前列の自分の席に着席するのを見届けてからセバスティアンが言った。


    「ほら、ジョゼフ。シェスターにお礼を言わなきゃ」


    するとジョゼフはさも納得がいっていないという顔ながらも、渋々シェスターにお礼を言った。


    「ああ、まあその、なんだ……ありがとう」


    だがお礼を言われたシェスターは、上の空で教室の隅の方を見ていた。


    「うん?おいシェスター、どこ見てんだ?」


    するとシェスターは今度は聞こえたのか、慌てた素振りで応答した。


    「い、いや、別にどこも見てやしないさ。ちょっと考え事をしていたんだよ」


    そんなシェスターの様子になにやらピンと来たジョゼフは、先程シェスターが見ていた方角を見ると、途端に相好(そうごう)を崩(くず)し、いやらしそうにニヤニヤしながら言った。


    「ほう。シェスター君はミランダちゃんが気になるのか~?」


    言われたシェスターの頬にわずかに朱が差すのをセバスティアンは見逃さなかった。


    「へ~ほんとうにそうなのか。シェスターがね~」


    「い、いや!そんなことは……」


    「慌てて否定しやがった。どうやらこいつは確定だな」


    「うん。いつも冷静なシェスターが慌てるってことは……そういうことだね」


    「そうか~そうだったのかシェスター君。いや~それならそうと言ってくれればいいのに~」


    「そうだね。ジョゼフ、僕たちで応援してあげようよ」


    二人の盛り上がり様を見て、シェスターは早くも観念したのかおとなしく黙りこくった。


    (……参った。まさかこんな形でこいつらにばれるとは……)


    シェスターは、心の中で頭を抱(かか)えて煩悶(はんもん)するのだった。
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